お茶を頂く際、手にする湯呑み茶碗。
丸くてコロンとしていたり、ずっしりと重みがあるなど、形は様々ですが、共通している点がひとつあります。
それは、『持ち手がない』ということ。
そして、実はここに、とても重要な意味が含まれているのです。
ぜひ、お手元にある湯呑み茶碗に触れながら、読んでみてください。
お茶を淹れる手順を考えてみましょう。
まずは、お湯を沸かします。
そして、少し冷ましてから茶葉に注ぎます。
ここが美味しさのポイント!
沸騰したお湯でお茶を淹れると、茶葉の渋みや苦みが強く出てしまい、旨味や甘味を引き出すことが出来ません。茶葉の旨味を引き出すために必要なことは、お湯の温度を下げること。お湯を少し冷ますことで、茶葉に含まれる旨味と甘味を十分に引き出すことが叶います。
美味しいお茶を淹れるためには、お湯の温度がとても重要な役割を担うのです。
そんな『温度』の変化を感じ取るのも、お茶の醍醐味のひとつと言えるでしょう。だからこそ湯呑み茶碗には取っ手がなく、手で包み込む形状で、味わうよりも前に、手でぬくもりが感じ取れるようになっています。
味覚だけでなく、触覚でもお茶を感じる。
五感で味わうからこそお茶は繊細で、深く、そして美味しいのです。
茶道における茶碗には、“お茶を淹れる”という本来の目的以外に、大きな役割が与えられています。
その役割とは、季節感の演出。
茶室では、設えを季節感ある物で統一したり、季節に合わせたお茶菓子を用意するなど、春夏秋冬の移ろいをとても大切に扱います。それを、茶碗も担います。
例えば、冬の茶碗は深く筒型の形状をしています。これは、お茶を冷めにくくするための心配り。そして夏の茶碗は、熱いお茶であっても早く冷めるよう、フチが広がった形状となっています。
寒い日には温かいままで、暑い夏には飲みやすく、茶碗には、そんなおもてなしが施されているのです。
また、絵柄も異なります。
暑い夏には涼やかな絵柄を選び、寒い冬には温かみ感じる絵柄を選ぶなど、見目にも茶碗には大きな役割が与えられます。
つまり、茶道にとっての茶碗とは、単なる入れ物では無いということ。
目で見て美しさを楽しみ、触った肌触りを愛でるための物。
だからこそ、取っ手などあっては無粋で、手で包み込む形状となっているのです。
湯呑み茶碗や、茶道における茶碗の役割について書いてきました。
形状や絵柄など、季節に合わせて使い分ける楽しみを、感じて頂けたことと思います。
そこで最後に、それ以外、お好みの出やすい部分について、解説をして参ります。
【口縁で湯呑み茶碗を選ぶ】
口縁(こうえん)とは、フチのこと。口をつける部分を指します。
ここに厚みがあると柔らかく感じ、薄いほど繊細でシャープに感じます。
どの感覚を良しとするかは、人それぞれ。好みが大きく出る部分であるため、お好きな触感を確認した上で購入するといいでしょう。
【産地で湯呑み茶碗を選ぶ】
やきものには、益子焼、九谷焼、有田焼、瀬戸焼、美濃焼……など、有名な産地がいくつもあります。産地ごとに特徴があり、風合いも触感も、あでやかさもまったく異なります。
どの産地のやきものに心惹かれるか、それは好み次第。
産地を基準として探す茶碗選びも、なかなか楽しいものですよ。
手で包み込むように使う湯呑み茶碗。
ぬくもりを感じ、茶碗の肌触りを楽しみながら、お茶を味わって欲しいと願います。
長く使う茶碗。「素敵!」と感じる一品との出会いがありますように。