日本にお茶が伝わったのは、805年。唐へ渡っていた天台宗開祖の最澄が、帰国した際に持ち帰ったと言われています。
ただ、こちらは言い伝えでしかありません。
きちんとした形で残っているのは、815年に記された『日本後記』。ここには、嵯峨天皇が近江国の梵釈寺にて、大僧都の永忠により“茶をふるまわれ、飲まれた”との記載が、しっかりと記されています。
ところで、そのような昔のお茶とは、一体いくらほどのお値段だったのでしょうか?
引用元:高宇政光著『日本茶の世界』
ここに、江戸時代・嘉永5年の引き札があります。
それを元に、当時のお茶の価格について見ていきたいと思います。
一段目右側、御薄茶の『上極揃 弐拾七匁』あたりでいいでしょうか。
分量は、一段目右端に『一斤』と記載されていますので、つまり、『上極揃という薄茶が、一斤で弐拾七匁』で買えるということが分かります。
では、当時の単位を現代の単位に換算していきましょう。
まずは、重さ。
一斤は、約600gとなります。ただし、当時は時期によって変動があり、おおよそこの辺りとご理解いただければと思います。
次に、金額。
日本銀行金融研究所貨幣博物館の資料によると、『金1両=銀60匁=約130,000円』とあり、『1匁=2,167円』となりますが、こちらも時期で相場が大きく変わるため、当時の目安とお考え下さい。
以上から、『上極揃 一斤 弐拾七匁=上極揃 600g 58,509円』となり、100gあたり9,752円のお茶だったということが分かります。
これは、かなり高価な品ですよね。これでは、一般の人の口に入ることは無かったのだと想像できます。
現代とは異なり、当時のお茶は限られた人のためにある物だったのです。
お茶との比較として、江戸時代の庶民の生活を記した“文政年間漫録”という文献より、江戸時代の物価についても見ていきます。
————————————————————-
<生活費>
・大工 日当5匁4分(=11,702円)、月収だと280,000円程。
・家賃(四畳半二間)年120匁(=260,040円)、1か月21,670円。
・調味、薪炭代 年700匁(=1,516,900円)、1か月126,408円。
・銭湯 5文(=163円)
・床屋 30文(=975円)
<食費>
・米(家族3人)年120匁(=260,040円)、1か月21,670円。
・豆腐1丁 12文(=390円)
・蕎麦1杯 16文(=520円)
・お銚子1本 12文(=390円)
・鰻丼1杯 100文(=3250円)
・お寿司1皿 60文(=1950円)
<遊興費>
・歌舞伎観覧 上席35匁(=75,845円)
・歌舞伎観覧 土間席132文(=4,290円)
————————————————————-
このように記されています。
見てみると、月収や床屋、外食費などは、意外にも現代とそう遠くない価値感覚が見られます。つまり、100gあたり9,752円というお茶の金額は、当時にあっても十分に高かったのだと言えるでしょう。
お茶は、将軍や大名、豪商など、一部の人の楽しみであったのかもしれません。
ちなみに、“千両役者”という言葉がありますが、これは比喩的表現ではなく、実在していたのだそうです。
そして、最初の千両役者となったのが、二代目市川團十郎。
最近、海老蔵さんが十三代目を襲名されましたよね。その團十郎さんです。
千両とは、現代の通貨では1億3,000万円!
古より、凄まじい稼ぎ頭はいたんですね。すごい世界です。
実は、同じく江戸時代、庶民の口にも入るお茶がありました。
しかしこれは、いわゆる“お茶”とは少し異なっています。
茶葉ではあるのですが、簡単な製法で加工された物で、ぐつぐつと煮出し、飲んでいたのだとか。
そこから時を重ね、きちんとした製法で作られるお茶も庶民の口に入るものとなり、日本人皆に愛されるようになっていったのです。
嘉永5年の引き札を見ていると、様々なお茶があったことが分かります。そして、お値段にも大きな差がありますよね。
これは現代においても同様で、真茶園でも100g 540円~3,240円と、5倍を超える差のあるお茶。この違いはどこにあるのでしょうか。
ひとつに、お茶を摘み取る時期が挙げられます。
一番茶と呼ばれる最初に摘まれた茶葉は栄養価も高く、旨味成分も多く含まれていることから、お値段は高くなります。
そして、完成したお茶の水色や味わい。
これは、どこまでお茶を追求するかの違いとも言えるでしょう。
「味が良ければ、水色には特にこだわらない」とする人もいますし、「味だけでなく、見た目も麗しい方がいい」とする人もいます。
もちろん、多くを追求すれば、それだけ高価になるという訳なのです。
そしてお茶の面白みとは、必ずしも「高ければいい」というものでは無いというところ。
味覚とは、人それぞれ。
甘みのある柔らかな高級茶の味わいよりも、渋みの強いお手頃な価格のお茶の味を好みとする人もおられますし、その日の気分によっても、飲みたい味は変わってきます。
また、普段使いなのか、美味しいお菓子と一緒に頂きたいのか、シーンによっても欲する味は変わるでしょう。
つまり、お茶の良さを決めるのは、結局のところ『お客様の味覚』次第。
だからこそ真茶園では、お客様のお好みや気分、使うシーンをいろいろに想定し、幅広い味わいを作り出しているのです。
幅広い価格帯をご用意しておりますが、お手頃な商品も、お茶の“良さ“を追求した味に他なりません。飲み比べ、お客様の味覚に添う物を、探し出して頂けたらと思います。